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研究の内容 | 遠方銀河探査と銀河形成

研究の背景 - 銀河の形成と宇宙再電離

宇宙で最初の銀河はいつどのように形成されたのでしょうか. この疑問は,現代の天文学における最も基本的な問題の一つに数えられます. 初期宇宙の始原的な物質が冷えて中性水素になったのは, ビッグバンから38万年後(赤方偏移で言えば z ~ 1000)の頃です. しかし,最初の星や銀河が誕生すると,銀河間空間の水素ガスは, 高温・大質量の星からの電離光子によってʻ再電離ʼされていきます. この「宇宙再電離」と呼ばれる現象は,最初の光り輝く天体が誕生したことを示す間接的な証拠となります.

近年,宇宙マイクロ波背景放射観測衛星Planckが, 赤方偏移 z = 7.8(ビッグバンから6億6000万年後,Planck Collaboration 2018)を 中心とする期間に宇宙再電離が起こったことを報告しました. その一方で,Hubble宇宙望遠鏡やJames Webb宇宙望遠鏡の活躍により, それ以前にも数百もの銀河候補が確認されています. すなわち,人類はすでに宇宙で最も古い銀河の誕生を目撃しつつあることになります.

とりわけ,この宇宙再電離の前期(以下では「前・宇宙再電離期」と記載) に大質量銀河を見つけることは,非常に難しいと考えられています. なぜなら,「わずか」数億年で観測にかかるほどに大きく明るい銀河が出来上がらなければならないからです. そして,その出現確率(個数密度,あるいは「光度関数」)は宇宙構造形成モデルに依存します. したがって,こうした大質量の銀河が形成される確率を決め,その形成過程(銀河内部の星形成とその母体のガスの性質) を理解することができれば,銀河形成の理解が格段に進むと期待されます. すなわち,この研究で私たちが解決しようとしている重要な疑問は,以下の3点に集約されます.

  • いつ大質量銀河が出現したか
  • 大質量銀河がどれだけ多く存在するのか,
  • その成長をコントロールするものはなにか

しかし,この時代に大質量銀河の「候補」を同定することは簡単ではありません. 一般に,銀河であることを同定し,その物理的性質を調べるには, 原子や分子のスペクトル線の分光観測が重要です. しかし,最遠方の宇宙でさえも検出が可能な明るいスペクトル線, およびそれらを検出するための高感度な観測装置の組み合わせは, きわめて限られているのが現状です.

研究のゴール

そこで本研究では,メキシコで稼働を始めた大型ミリ波望遠鏡(LMT)のための新しいミリ波・サブミリ波受信機FINERを開発し, 近年その有用性に注目が集まる遠赤外線のスペクトル線(微細構造線) [OIII] 88μm と [CII] 158μm 輝線(Inoue et al. 2016) を用いて,宇宙再電離前期の銀河の高感度分光観測を目指します. また,こうしたスペクトルをもとに,検出された銀河の物理的性質の解明も目指します.

なぜ FINER が必要なのか

FINERは,ALMAと同等の感度を実現しながら,ALMAの5倍の同時分光帯域幅をもたらします. LMT-FINERは,ALMAの40%の集光面積,ALMAと同等の大気透過率,ALMAの5倍の帯域幅を実現します. これにより,北半球のミリ波・サブミリ波望遠鏡のなかで最も観測効率の高い輝線分光探査を可能にします.

さらなる天文学・惑星科学へのインパクトも

さらに,FINERは,以下のさまざまな研究に利用が可能です.

  • 太陽系内天体
  • 星間物質,アストロケミストリー(星間化学)
  • 星形成
  • 近傍銀河の輝線分光撮像
  • 遠方のサブミリ波銀河(爆発的星形成銀河)